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Coffee in Winter 午前6時、カーテンから外を覗くと、山の向こうにはまだ藍色の夜が残っていた。 冬は夜明けが遅いからこの時間でもまだ外は暗く、動物たちもひっそりとしている。だからこちらも静かに朝の支度を始めるのだが、それはまるで朝の静寂を守ることがこの時間を過ごす者のルールであるかのようで、ちょっと神聖な気持ちになる。 やかんを火にかけ、深煎りのパラダイスブレンドをコーヒーミルで静かにゆっくり挽いたら、挽きたての粉をぶくぶくさせながらあつあつの湯を慎重に注いでゆく。冷えたキッチンには湯気がのぼり、ほろ苦い香りに満たされる。 山田珈琲で特別にブレンドされたこの豆は主にブラジルを使用していて、しっかりとした深みのコクと、苦味がありコーヒーらしさのある豆。まだぼんやりとした朝にはすっきりとした目覚めの感覚をくれ、食後の口直しにもちょうどいい。 寒くなるとなぜだか無性にあたたかいコーヒーを淹れたくなる。いつもは朝食に始まるが、キャンプの朝に淹れるコーヒーは格別の美味しさがあるし、太陽で温まった午後の部屋で淹れるコーヒーも美味い。そこにはおやつがセットになってくるわけだが、パラダイスブレンドでは少し味が強い気もする。おやつタイムや午後の休息にあうようなコーヒーを作ってみたくなった。味はすっきりと、ほのかに花の香りがするような、こういうとヘンだけど、紅茶のようなコーヒー。そんなリクエストを山田珈琲のご夫妻に投げてみると、快く話を聞いてくださった。 山田さんご夫妻はもともと大阪で暮らしていたが、ある時スペシャルティコーヒーというものに出会い、コーヒーの魅力にはまっていった。ご主人は仕事の傍ら色々なセミナーに出向き知識を深め、いつしかご主人の所縁あるこの島で珈琲店を営むことが二人の目標になっていた。それからは仕事を辞め、焙煎の修行の道を行くことになるのだが、その頃を振り返りながら「大変だったけど、楽しかったなぁ」と語るご主人の顔は柔らかく、今の仕事への愛情が伝わってきた。焙煎の方法は人によって異なるためどれが正解というものがないが、豆の良さを最大限に引き出したいという思いは同じなような気がした。彼もまた自家焙煎にこだわり、良い豆との出会いと、焙煎との相性を日々追求している。 リクエストから数日後、テイスティングに伺うと、2種類の味を用意してくださっていた。香りが違う二つの珈琲を飲みくらべるが、なんだかちょっと惜しい感じがあった。ご主人は斜め上を見上げてしばらく考え、少しブレンドを変えて出してくれた。 これはだいぶんいいぞ。確かに香りがあり、程よく主張もある。ほとんど決まりそうな空気が流れていたが、ご主人が何やら言いたげな表情をしている。こちらも聞きたい気持ちになった。どうやら、まだ出していないオススメがあるらしい。 「これはね、すごくいいんですよ。」 ちょっと困ったような表情で、これを知るともう後には戻れない、そんな含みのあるいい草でそれを教えてくれた。そうなると飲まずにはいられなくなり、過去へは戻れない覚悟で最後のテイスティングをした。 なるほど。目を見開くほど、まるで違った。 美味しい。その飲み心地はあまりにも爽快で、するすると飲んでしまった。コーヒーの味わいが確かにあるけれど、軽い。そして、花のような豊かな香りとすっきりとしたコーヒーの味は、浅煎りでありながら時間が経つと深みが増し、飲むほどに違った味わいを見せてくれる。 これまで深煎りを好んで飲んでいたけれど、これはコーヒー革命だった。 ふと、この豆に出会ったときのことを話してくれた二人の顔が浮かんだ。 いいものに出会えるチャンスはあるけれど、大切なのは、そのチャンスを逃さず掴み取ること。「ようやく出会えた」とうれしそうに語る二人の眼差しは、ここ奄美でも浅煎りコーヒーの革命を起こしたい、そんな希望に満ちていた。 いっしょにコーヒー革命を起こしてみましょう。 これは、すごく、いいんですよ。 photo, text _ Miyuki Arimura
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