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Amami Orange たんかんジャムでドレッシングを作るなんて想像したこともなかったが、どうやらその家庭では定番になっているらしかった。 「阿鉄といえばパイン」と言われるほど、かつてはパインの栽培が盛んだったその場所は島の南にあるとても小さな集落だ。ちょっとマイナーかもしれないが、自然が豊かで美しい、そんな阿鉄集落を知ることになったのは、ある人の作るとても美味しいジャムがきっかけだった。 ”んまま、たんかんジャム” と名前のついたそのジャムは、奄美特産のたんかんを贅沢に使用していて、蓋を開ける香りが広がり、中はつやつやのオレンジ色で満たされている。 それはジャムというよりたんかんそのもののような、もしくはソースという方があっているような、たんかんの持つ味・色・香り、それぞれの濃度のをそのままぎゅっと瓶に詰め込んだような「そのまま」のジャムだった。 剥きづらいたんかんは切って食べることも多いけれど、そこでは全て手作業で剥かれていて、果実にぴったりとくっついた筋までもがひとつずつ、きれいに取り除かれていた。理想の風味を保つため、原料にはあえて風味が濃い小さめサイズのたんかんを選んでいるから、その作業はとても根気と時間がかかるものだ。 この手間ひまをかけたジャム作りをしているのは、きゃしなふの増 麻那美さん。夢を叶えるためにこの島に戻ってきたという彼女は、農業研修生としての日々を終え、今ではきゃしなふ農園の園主としてフルーツの成長と日々を共にしている。農家になった彼女が、素材そのままの味をそのままの色や香りで食べてもらいたいと、お母様とふたりで朝から晩まで丸一日かけて丁寧に処理されたぴかぴか果実を、保存料など一切使わずに炊き上げている。 実はこのたんかんジャムのレシピは、増さんが幼い頃から存在するのだそう。おじいさまの代から続くたんかんの栽培では市場に出回らない傷ものも必ず出ていたため、それらを無駄にせず保存できるようにと増さんのお母様が作っていた「家庭の味」がこの美味しいジャムの始まりなのだ。 ジャムを炊くという前日に増さんの加工場を訪ねると入り口に立った途端にたんかんの香りで満たされ、奥からその産みの親であるお母様がにっこりとチャーミングな笑顔で迎え入れてくださった。その時私はこのジャムの美味しさの秘密に、またひとつ触れたような気がした。 増家ではサラダのドレッシングに使うのが定番と聞き、その夜はサラダを。 翌朝はこんがり焼いたパンに、たっぷりと塗ってみた。 前日に見た二人のことが浮かんで来て、当たり前だけれど、ほんとうに美味しかった。 阿鉄をはじめて訪れた時、集落の清らかな雰囲気をとても気に入った。山あいを進んで畑へ向かう道に風が抜け、横を流れる川のせせらぎや空間に響く鳥の鳴き声が集落のすみずみまで瑞々しく行き渡っているように感じたことを今でもよく覚えている。途中で出会った犬や山羊、それから牛。みんなのんびりと、集落の一員として豊かな暮らしをしているようだった。 このたんかんジャムを食べると、そんな豊かな情景が浮かんでくるような気がしている。 photo, text _ Miyuki Arimura 写真提供 きゃしなふ
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